2026年7月、北陸ブロックの山間部を襲った記録的な豪雨は、幹線となる農林道を複数箇所で寸断しました。集落へ物資が届かず、通院や通学の手段が失われた日。そこから道が開くまでの記録と、同じ事態を繰り返さないために進めている「迂回路網の設計」という考え方を紹介します。
この特集で扱う災害は、取材をもとに構成した架空の事例です。ただし、そこで起きた課題の多くは、各地の被災地で共通して指摘されてきたものです。
2026年7月、何が起きたか
7月11日から13日にかけて降り続いた雨は、山間部で総雨量620mmを超えました。48時間雨量は観測開始以来最大となり、沢の水位が急上昇しました。幹線農道は4か所で法面が崩落し、1か所では路肩が幅20mにわたって流出。山中の3集落、合わせて約140世帯が一時的に孤立しました。
最も早く被害を把握したのは、地元の消防団と、林業を営む住民でした。雨がやんだ翌朝には、普段は作業道として使っている山道を通り、徒歩で集落に到達しています。公的な道路の被害状況が判明するより、地域の人が「通れる道」を知っていたのです。
一方で、その山道は幅員が2.2mしかなく、緊急車両は通れません。物資の搬入には小型のトラクターが使われ、医薬品や食料を少しずつ運びました。孤立は3日間に及び、全面復旧には45日を要しました。
「その場の判断」が遅れを生む
災害直後の迂回路選定は、多くの場合、現場に集まった関係者の経験と勘に頼って行われます。しかし、豪雨の最中や直後は、どの道が通行可能かを確認する手段が限られます。道路管理者が把握している路線情報も、被害の全容が分かるまで更新されません。
結果として、優先的に啓開すべき路線の判断が後手に回り、孤立の解消に時間がかかります。この事例でも、最初の迂回路が確定するまでに丸1日を要しました。判断そのものが遅れたのではなく、判断に必要な材料がその場に揃っていなかったのです。
加えて、複数の管理者が関わる路線では、どこを誰が開けるのかという役割分担が、発災後に決められることになります。平時からの取り決めがなければ、この調整にさらに時間がかかります。
迂回路網という考え方
迂回路網とは、単一の代替路線を想定するのではなく、複数の迂回経路を組み合わせて面として捉える考え方です。ある路線が使えなくなったとき、どこを通れば集落に到達できるかを、複数の条件で用意しておきます。
JAWRICは、この設計を支援する手順を整理しました。対象地域の路網を路線単位で把握し、それぞれの幅員・勾配・舗装状況・橋梁の有無を記録します。そのうえで、通行止めが発生した場合に成立する迂回の組み合わせを、あらかじめ計算しておきます。
- 第一迂回:緊急車両が通行可能(幅員4.0m以上、勾配12%以下)
- 第二迂回:小型車両が通行可能(幅員3.0m以上、勾配15%以下)
- 第三迂回:徒歩・軽車両による到達(幅員2.0m以上)
- 補完経路:林業作業道・農作業道の一時活用(通行協定に基づく)
重要なのは、第三迂回まで含めて事前に把握しておくことです。緊急車両が入れない道であっても、徒歩で到達できる経路があることは、情報収集や物資輸送の計画づくりに役立ちます。
事前に備えるために何をするか
迂回路網の設計は、災害が起きてからでは間に合いません。平時にやっておくべきことは、それほど多くありません。まず、管内の路網を地図上で一元的に把握すること。次に、要配慮者がいる世帯や通院が必要な世帯の位置を、支援側で共有しておくこと。そして、管理者間の連絡体制を決めておくことです。
この事例の地域では、翌年から3つの取り組みを始めました。1つは、地区ごとの路網台帳の整備です。2つめは、林業事業体との通行協定の締結。3つめは、年1回の図上訓練の実施です。訓練では、実際に1つの路線が通行止めになったと仮定し、迂回の組み合わせをその場で選ぶ練習を行います。
図上訓練を重ねるうちに、自分たちの地域がどこで分断されやすいか、共通の理解が生まれました。この理解は、災害時の判断を速くするだけでなく、平時の改良計画にも反映されています。
復旧の順番をあらかじめ決めておく
発災後の限られた人員と機材を、どこから投入するか。これも事前に決めておける事項です。集落への到達を最優先にするのか、それとも幹線の啓開を優先するのか。地域の状況によって答えは変わりますが、判断の基準を先に持ち、関係者で共有しておくことには意味があります。
JAWRICは、市町村がこうした事前の計画づくりを進める際に、技術的な支援を行っています。支援メニューの詳細は自治体支援メニューのページでご案内しています。防災・災害復旧に関する事業の全体像は、事業紹介ページをご参照ください。